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極低温におけるヘリウムクラスターイオン生成
日高 宏,神野 智史,田沼 肇,小林 信夫

DT1  近年、物理・化学の諸分野で気相とも凝集相ともつかないクラスターと言う状態に関する研究が盛んに行われています。原子あるいは分子が2〜数百個集まった集団をクラスターと我々は呼んでいますが、クラスターと一口に言っても、その結合様式によって様々な種類があります。以下にその種類を示します。

  • ファンデルワールスクラスター
  • 共有結合クラスター
  • 水素結合クラスター
  • 金属結合クラスター

 我々の研究室では、クラスターイオンの研究を行っています。クラスターイオン生成において用いられる代表的な実験手法は、ノズルやオリフィスを用いて超音速ジェットガスを噴いて断熱膨張によりガスが冷却され中性クラスターを生成し、その後その中性クラスターに光や電子をあててイオン化させるというものです。しかし、我々は極低温移動管質量分析計の特性を生かして従来の方法とは異なった手法でクラスターイオンを生成しています。では、その生成法はどういったものかといいますと、「極低温のガスが満たされた容器内に十分に減速されたイオンを入射すると、イオンとガス分子間に働く分極力という引力によってイオンとガス分子が徐々に結合していき、クラスターイオンが生成される」というものです。これは、上記の分類には入らない「分極クラスター」と言えるものです。我々の用いている方法によってクラスターイオン生成を行うと、移動管内電場やガス圧力を変化させることでクラスターイオン生成過程のエネルギー依存性もつぶさに追う事が可能になります。

 以前より極低温(2〜4.3K)に冷却されたヘリウムガス中に様々なイオン(He+, Ne+, Ar+, Kr+, CO2+, N2+, CO+, O2+)を入射することで、ヘリウムクラスターイオンの生成を行ってきました。最近、入射イオンとして二価イオンを用いて実験を行っています。クラスターイオンで主要な結合力は分極力でその力は入射イオン価数の2乗に比例するため、一価より大きいサイズのクラスターイオンの生成が可能になるはずです。これまでKr2+とAr2+について実験を行いました。

 Kr2+を用いた実験では、結合ヘリウム数n = 40(KrHe402+)というサイズのものが生成されました。また安定なクラスターサイズを表すマジックナンバーとしてn = 12および 32が観測されました。n = 12は希ガスクラスターでも観られる値ですが、32という値は今回はじめて観測されたもので、クラスターイオンの構造を推測する上で大きな発見です。観測されたマジックナンバーから、安定なKrHe122+は正二十面体構造をしており、KrHe322+は正二十面体構造のKrHe122+の各面上に20個のヘリウム原子が結合した構造をしていると考えられます。

 Ar2+を用いた実験では、まだ明確ではありませんが、電荷移行反応とクラスターイオン生成反応が競争するという結果が得られています。Ar2+とHeは、電荷移行反応が発熱的に起こる系です。しかしながら我々の実験で、電荷移行反応を起こさずに生成された二価のクラスターイオンArHen2+が観測されました。つまり、電荷移行反応を起こす前にクラスターを形成してしまうと、電荷移行反応を起こさず安定にAr2+がヘリウムクラスター内に存在する事ができるのです。

参考文献
  • T. M. Kojima, N. Kobayashi, and Y. Kaneko, Z. Phys. D -Atoms, Molecules and Clusters 22, 645-650(1992).
  • H. Tanuma, M. Sakamoto, and N. Kobayashi, Surf. Rev. Lett. 3, 205-209(1996).
  • H. Tanuma, J. Sanderson, and N. Kobayashi, J. Phys. Soc. Jpn. 68, 2570-2575(1999).
  • H. Tanuma, H. Hidaka, and N. Kobayashi, The Physics of Electronic and Atomic Collisions (AIP, 2000) pp. 699-703.


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